お願い♥セニョリータ

「朝彦さん、お先です〜」

「お先に失礼します!」

「ああ、お疲れ。又、来週〜」

 仲良く肩を並べて帰っていく仲間たちにヒラヒラと手を振りながら鹿島 朝彦(かしま ともひこ)は灯の消えた店の壁にもたれてたばこに火をつけた。

「幸せそうでいいねぇ…」

 紫煙を吐き出しながらボソリと呟く。

 彼の視線の先にあるのは北見 孝一(きたみ こういち)の背中だ。

 彼はつい先日、十ヶ月余りの片思いの末に見事に“運命の男性”を手に入れた。ただ今、蜜月の真っ最中。

 今日も先にバイトを終えてやってきた、出来たてホヤホヤの恋人—結城 悠(ゆうき はるか)—と人目が少ないのをいいことに仲良く手を繋いで歩いている。時折、顔を見合わせて笑いあったりしているのが遠目からも伺える。

「いい気なもんだ…」

 事あるごとに、聞きたくもないのに悠の事を自分のスタンスで話していた孝一。こっちの迷惑も考えずに話かけてくるものだから、朝彦もついいじわるな言葉で返していた。その自分の言葉一つ一つに戸惑ったり食って掛かったりする反応が可愛かったのに、今では何を言ってもサラリと受け流してしまうのが可愛くない。

 可愛い…という表現は間違っているか。

 その余裕のある態度が許せない…これもちょっと違う気がする。

 悠のことを話す時のだらしなく表情が緩むのが面白くない。そう面白くないのだ。黙っていればキリッとした爽やか系のイイ男なのに。

 だからといって彼の幸せが妬ましいわけではない。別に孝一のことが好きなわけではないし、恋の成就を心から祝福もしている。それよりなにより朝彦にも一生を共にすると誓った彼がいるのだ。

 彼—鹿島 裕二(かしま ゆうじ)—とはキチンと籍も入れて名実共に『夫婦』(ちょっと違うか?)なのだし、私生活では孝一以上に蜜月だ。

 ならどうしてこうもイライラするのだろう?

 同じように仲良く働く達哉と一志のカップルを見ていてもこれほどイライラすることはないのに——。

「待たせたな、朝彦…」

 聞き慣れた声に、一口吸っただけで後は燃えるに任せていた煙草を携帯灰皿で揉み消し、朝彦は持たせかけていた背中を浮かせて振り返った。

「ご苦労さん裕二。お疲れさまママ…」

 裏口から並んで姿を現わした二人にねぎらいの言葉を掛ける。

「あら、朝美ちゃんだけなの? 皆は」

 ママが辺りを見回す。

「なんだかソワソワと落ち着かない感じだったから先に帰らせましたよ」

「そっか今日は週末だものね。いいわねぇ皆、幸せそうで…」

 彼女がシミジミ呟くから、思わず「そんな言い方するとママが幸せじゃないみたいに聞こえるけど?」と、いつのもの癖で突っ込んでしまった。するとママは慌てて首を振った。

「あ〜ら、私は十分幸せよ。素敵な男性に囲まれて仕事してるんだもの。ただね…」

「ただ?」

「一人が寂しい時もあるって事よ」

「俺達で良ければ付き合いますよ」

 裕二の提案に朝彦も隣でコクリとうなずと、即座に「結構よ」と返事が返る。

「どうして? 一人が寂しいなら一緒に飲みましょうよ」

「私の事を一番に考えてくれない人たちと一緒なんてのはゴメンだわ。それに不粋なマネして馬に蹴られたくないもの」

 二人を傷つけないように古風な言い方をしてママは微笑んだ。

 顔を見合わ苦笑する朝彦達に「じゃあね」と片手を上げて背を向け、思い出したように足を止め向き直った。

「そうそう。朝美ちゃん」

「なんですか?」

 仕事ネームで呼ばれ思わず背筋を正して聞き返した朝彦に彼女は自分の眉間を人さし指でチョンチョンと叩く。

「…?」

「ここに皺寄せるのは止めなさいね。せっかくの美人が台無しよ。じゃあ今度こそ本当にさよなら〜」

 スッキリした笑顔でヒラヒラと手を振ると夜の闇に消えていった。

「ここにシワ…? 一体、何が言いたかったんだろ。なぁ裕二?」

 自分の眉間を指さしながら隣を見上げると。

「そうだな。俺もママに一票」

 裕二が手を上げて賛成票を投じた。

「だからなにが言いたいんだよッ!」

 なんだか一人だけかやの外に放り出されたようで面白くない。ついつい尖った声で聞き返してしまったのだが、裕二は驚きもせずに続けた。

「ここ何日か」

「うん?」

「ここに皺を寄せて不機嫌そうな難しい顔をしてることが多いと感じだ。ホラ、今も」

 言いながら裕二が朝彦の頭を引き寄せ眉間を撫でる。

 今は不機嫌丸出しの表情をしているのは、自分でも解っている。

 でも仕事中にそんな顔をした覚えはなかった。どんな時でも柔らかな笑みを絶やさないのが『ル・グラン』の看板ホステス・朝美ちゃんなのだから。

「思い当たることない?」

 他ごとを考えている時に、急に耳もとに吹き込まれた声にゾクリと背中が泡立ち尖っていた事を忘れて朝彦は思わず身体を竦めた。

「な…なんも思い当たることなんてないよ。指摘された本人が一番驚いてるところだよ!」

 吐き捨てて身体を離そうと身をよじるけれど、裕二の腕がさらにきつく腰を引き寄せる。

「そうなのか…無意識だとしたら問題アリだな」

「問題アリって…」

 顔を近づけて真顔で言われて思わずマジマジを顔を見つめてしまった。

(どんな表情してもカッコイイなぁ、裕二は…)

 フラリと立寄った『ル・グラン』でシェーカーを振る裕二の真剣な眼差しに一目惚れ。勢いにまかせて告白したけれど軽くかわされてしまった。これまで百発百中…とまではいかないまでも、声をかければ必ず色好い返事はもらえていたのだ。あの時、どうしてそこまでこだわったのかは今でも謎だけれど、とにかく悔しくて、なんとかして振り向かせたいと思い、募集もしていないのに押し掛けバイトに収まったのである。

 ママは自分の出した条件をすんなり飲んだ朝彦をあっさりと雇ってくれた。

 自分の性別を偽ることなど目的を果すためなら、どうと言うことはなかった。 経験はなかったが実際やってみると面白くて、いつの間にかハマってしまっていたのだ。

 働くことが楽しくて本来の目的を忘れて仕事に夢中になっていた頃、思いもかけず裕二の方から告白されたのだった。

「俺は一目惚れなんて信じていない。第一印象は気に入らなかったんだが、一緒に働いてみて見た目とのギャップにいつの間にかひかれていた」

 シェーカーを振る時と同じ真摯な瞳で告白されて、一瞬、頭が真っ白になったのを今でもよく覚えている。

 あれから五年あまり。

 一目惚れした男らしい精悍な顔だちは最近、年と共に渋みを増し、見つめられる度にドキドキするのはいつまで経っても変わらない。仕事中に視線が合うと頬が紅潮するのを止めるのに四苦八苦するほどだ。

 朝美から素の朝彦に戻った時、言葉遣いが乱暴になるのは照れ隠しの現れなのだ。

「大アリだろう。知らない間に眉間の皺をお客様に見せてるとしたら?」

「そんなこと!」

「ない…とは言えないよな? 無意識なんだから」

「うう〜」

 反論しかけた言葉尻を捉えて被せるように言われて、朝彦は言葉を接げなくなった。

「うなってもダメだ。ここになにか抱えてるからそんな風になるんだ。それを解決してやろうって言ってんのさ俺は」

 腰を捉えて顔を覗き込んで、心臓のあたりをトントンを叩いて優しく言ってくれる裕二の言葉は素直に嬉しい。

 嬉しいのだが———。

(真剣に考えてくれてんのは判るし、それはとても有難いことだけど…。でも、どうしてそんなに楽しそうに言うんだよ?)

 疑問を口にすることができず、朝彦は裕二に促されるまま愛車の待つ駐車場へと連れていかれたのだった。


「うっ…ん、なあ…裕二ィ?」

 執拗に続けられる胸への愛撫に息を弾ませながら朝彦は問いかけた。

「ん? なんだ?」

「あうっ…くっ…くわえたッ、ま…まで、しゃ…喋るなッ!」

 途切れ途切れに必死に言葉を吐き出すと、仕方ないなぁとでも言いたそうに裕二は乳首を軽く一噛みして、やっと唇を離してくれた。が、口での行為を止めてくれただけで手のひらで転がすことは止めてはくれない。それでも幾分、楽にはなった。

「話を聞いてくれるんじゃ無かったのかよ」

 一息ついて胸の当たりにある髪の毛を掴んで聞くと、「そうだよ」と声が返ってくる。

「なら、なんでこんなことしてるんだよ?」

「あれ? なんか不満。したく無い?」

 ようやく顔を上げた裕二が髪をかきあげながら、反対の手で硬くしこった胸の飾りを弾いた。敏感になった部分を弾かれて背筋をしびれにも似た快感が駆け抜ける。

「はうっ…そっ、そう言うことを言ってるんじゃなくって…」

「じゃなくて?」

「だっだから。俺だってシタいけど。でもっ! それはっ、話を聞いてくれてからでも遅くないだろ!」

 真っ赤になって反論する朝彦を笑みを含んだ顔で見下ろして、裕二はペロリと舌舐めずりをしてみせる。チラリと覗いた舌が妙にエロティックに見えた。

「そんな悠長なこと言ってていいのかな。ここはこんなになってるけど?」

 視線で朝彦の全身を嘗めるように見つめ、直接、興奮を伝える朝彦自身の先端を指先で擦った。あからさまな刺激に身体がはねそうになるのを必死に堪えて言葉を吐き出す。

「……が…」

「ん? なんだって?」

「お前が触るからだろっ!」

 余裕のある態度に腹がたち、睨み付けてやったのに相手はニヤニヤといやらしい笑いを止めない。

「俺は触ってないけどナ。ここだけは」

「…っく」

 身体をかがめわざとソコに息を吹きかけるのに朝彦は唇を噛み締めて顔を背ける。

 確かに裕二は朝彦自身には一度も触れていない。バスルームの中でもベッドにもつれ込んでからも、全身を唇と手とで愛してくれはしても肝心なソコには触れてはくれなかった。焦らすように周辺だけを掠めて、巧妙にソコだけを避けていた。耐えられなくて伸ばした手は届く前に捕まえられベッドに押さえ付けられたままだった。

 そんなことは初めてだった。

 それどころか裕二の身体を触らせてもくれなかった。行き場の無くした腕でシーツをつかみ拷問にも似た愛撫に耐えていたのだ。

 いつもと違う手順。

 いつもと違う口調と表情。

 余裕をみせる笑顔の中にどことなく意地悪な感じがするのは気のせい?

 なにか裕二を怒らせるようなことを自分は無意識のうちにしてしまっていたのだろうか———。

 考えようにも思考が上手く働かない。中途半端に煽られた身体にこもった熱は一向に引く気配はない。

 訳の判らない涙が頬を伝い落ちる。

「…なんで、そんな意地悪なこと言うんだよ」

「お前の困った顔が見たいから」

「俺の困った顔見てて楽しい? 面白い?」

 売り言葉に買い言葉で問いかけると「ああ、楽しいね」と返ってきた。

「俺の言動にいちいち素直に反応してくれるのが、めちゃくちゃ可愛いね。もっと苛めたくなる」

「なっ…——!」

 反論しかけて、ふと、頭の中に浮かんだ思い。

 自分も孝一に対してそういう感じで接していた。真面目に相談にのってやろうと思うのに、狼狽える顔が見たくて気がつけば意地の悪いことばかりしていた。

 それでも孝一はめげずに話しかけてくるのだ。それが妙に嬉しかった。

「解ったか?」

 朝彦の表情の変化を素早く読み取った裕二がそれまでの笑みとは違う包み込むような笑顔で聞く。

「つまりはそういうことだよ」

 額に貼付いた髪をかきあげ、現れた額に啄むようなキスをくれて、全身を大きな身体で包むように抱き締めてくれる。投げ出していた腕をとって自分の背中に回させる。ようやく許された行為に朝彦は全力で裕二にしがみついた。

「お前の眉間の皺は、孝一の恋が成就したのが原因なんだよ」

「俺、別に孝一に惚れてたわけじゃない。心から応援はしてたけど…」

 そう、それはウソじゃない。ところかまわずの話してくるのには閉口していたけれど、自分を頼ってくれているのが嬉しかったのだ。

「一人立ちしたのが寂しかったんだろ? 好きな人を守るためにアイツは大人になったから。頼る立場から頼られる立場になったからな。弟を取られたような感覚…って言うと解りやすいかもしれないな」

 裕二の言葉はすんなり朝彦の心の中に落ちた。

(弟…そうか。それで面白くなかったのか。俺は…)

 達哉にははじめから一志が居たから相談を受けることもなかった。だからあの二人を見ていてもイライラすることはなかったのだ。

 裕二は朝彦の心の中にわだかまっていた、訳の解らないイライラの原因をいとも簡単に解きあかしてくれた。それには感謝するが、どこか釈然としない部分が残っているような気がした。

「裕二ははじめから解ってたのか? 俺のイライラの原因」

 しがみついていた顔を少し離して尋ねると「ああ」と簡単な答えが返る。

「どうしてだよ」

 重ねて聞くと、困ったように眉を下げ、大きなため息をつかれてしまった。

「そんな簡単なことも解らないのか?」

「解らないから聞いてる!」

 駄々っ子のような自分の台詞に裕二はふわりと微笑んで、また抱き締めた。

「いつもお前を見てるからに決まってるだろ?」

「えっ?!」

「失礼なヤツだな。どんな時でも惚れてるヤツには自然に目がいくものさ。無意識にね」

「…裕二…イテッ、なにすんだよ!」

 惚れてるという言葉にうっとりしかけところで、自慢の鼻をつままれてウットリ気分がアッと言う間に吹き飛んだ。

「ちょっとした腹いせ。俺もお前と同じ気分を何度も味わったんだ。これぐらい我慢しろ!」

 想像もしていなかった台詞を聞かされて、ほんの少し怯んでしまう。

「なんで。なんで俺と同じ気分を味わうんだよ、裕二が…」

「お前が孝一と楽しそうに話してるのを側で見ている俺がやきもちを焼いてたなんて、きっと気がついてないんだよなぁ…」

「や…そっ、それは」

 悲し気に言われて口を噤むしかなかった。だって本当に気がついていなかったのだから。元々、感情を表に現さないタイプだし、仕事も裏方だから客に不必要な愛想を振りまくこともない。

 それに裕二が孝一に嫉妬するなんて似合わない。

 常に大人の貫禄で二人をいさめてくれていたのだから。

「まあ、いいさ。誰も気付いてないだろうし」

「なら、いいじゃん」

「よくない! 誰が気付かなくてもお前だけは気づけよ!」

「えっ、なんで」

 それをお前が聞くのか? と呆れた口調で返され、朝彦は二の句が接げなかった。

「惚れて籍まで入れた相手が、仕事仲間とはいえ他の男と仲良くしてるのを平気で見すごせるほど俺は大人じゃない。だからやんわりと牽制してただろう?」

『孝一をからかうな』とか『孝一で遊ぶな』とか——。
「あの言葉が?」
「ああそうだよ」
 あれは自分をいさめてくれていたんじゃなくて牽制だったのか。

 分かりにくい。裕二のやり方は余りにも分かりにくすぎる。

 今のようにハッキリ言葉にしてくれなくては分からない。

 眉間のシワの原因にしても余りにも遠回しすぎる。なにもこんな感じで自分を虐めなくてもいいではないか——とも、思うけれど。

 それが裕二なのだ。

 だから今回は素直になろう。

『いつも見てる』とか『惚れてる』とか『嫉妬してる』とか『大人じゃない』とか…裕二の本音が聞けたのだから。

 素っ裸で抱き合っていて、今更のような“愛(?)”の言葉を聞かされて、煽られた身体が平気なわけがない。二人の間に挟まれているお互いのモノがしっかり主張をし始めている。

 朝彦は裕二の頬にキスすると身体の下から抜け出し、この上もなく愛おしい存在をパクリと口に含んで嘗めあげる。

 頭の上で息を飲む音が密かに聞こえニンマリする。

(覚悟しろよ、裕二)

 心の中で呟いて、反撃を開始した———。

 つもりだったのに…気がつけば、泣かされているのは朝彦だったりするのだ。 裕二はそう簡単に主導権を握らせてはくれなかった。

 しばらく朝彦の好きにさせてくれていたのに、我慢の限界に達した裕二にいとも簡単に身体を入れ替えられ、アッと言う間に立場は逆転した。

「アッ…や、いやっ——ソコじゃなくて…もっと——奥…」

 五年も抱き合っていれば、自分の快感ポイントなんて知り尽くされている。

 うつ伏せて腰を高く上げた状態で裕二はソコを指で激しく攻め立てる。けれど微妙にポイントから外れているようでもどかしい。

 あともう少しなのに…。

「指…じゃ、と…届かない——裕二…いっ、いれて。お願い……」

 目の前にある逞しく天をつくほどにそそり立ったものに手を添え、竿の部分に舌を這わせながら懇願する。

「…あっ」

 ふいに指が抜かれ気がそがれた一瞬のあと、背後から望んだものが与えられた。

「あ——っ!」

 充分に慣らされほぐされたソコは裕二の欲望の塊をすんなりと迎え入れ、さらに満足のいくポイントまで貪欲に引っ張り込む。

 目も眩むような凄まじい快感が全身を駆け巡り、朝彦は腕を突っ張って背中を撓らせる。

「裕二…裕二…」

 倒れ込みそうになる身体を右手で支え、顔を巡らせて手探りで裕二の頭を探り引き寄せる。無理な体勢でキスを求めると朝彦の中にいる裕二の角度が変わり更に別のポイントをつく。

 後ろからの激しい突き上げと口腔を嬲る噛み付くようなキスとに、絶えまなく手で刺激を与えられている朝彦自身の先端が一層大きく膨らんだ。

「ん…うん……ああッ———!」

「——んッ!」

 喉の奥でくぐもったうめき声を上げ朝彦が欲望を吐き出したすぐ後、身体の奥で裕二が弾けた。


「まあアレだな。お前は悠に嫉妬してたんだ」

 けだるい開放感に包まれている朝彦の隣で、事後の煙草をふかしている裕二がボソッと呟いた。

「アイツに? 俺が? なんでだよ」

 裕二の指から煙草を奪い取って朝彦は不満げに唇を尖らせた。

「孝一の態度があからさまに変わるから。悠が顔を見せると孝一は他になんも目に入らないからなぁ…」

「それはそうだ。でも、迎えに来るな、なんて言う権利俺達にはないしなぁ。意識しないように気をつければいいのか。仕事の邪魔をするわけじゃないし」

 そうだな…と返して、裕二は新しい煙草に火をつけた考え込んだ。

「どうした?」

 聞いても返事は返ってこない。

 煙草の灰が落ちる寸前まで考え込んでいた裕二が口を開いた。

「常に一緒にいれば問題はないんだ」

「はぁ?」

「キレイ系と可愛い系。タイプが違うからウケると思わないか?」

「それって悠も雇うってこと?」

 そうだ、と裕二はうなづいた。

「いいとは思うけど、そんなの勝手に決めちゃダメだろ?」

 オーナーはママだ。人事の決定権も当然ママにある。

「いや、店の利益に繋がることだったら反対はしないだろ」

 自分よりも付き合いの長い裕二の言うことだ、おそらく間違いはないだろう。 それに悠の人となりはママも認めているし、提案してみるのもいいかもしれない。

「じゃ、週明けにでも相談してみる?」

 聞くと、裕二は満足そうに笑った。

 一週間後———。

 常連客が『ル・グラン』のドアを開けると、二人の美女が揃って微笑んでいた。